「菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール」は、菊地が2005年に発表した『南米のエリザベス・テイラー』の世界観をシアター・アートとして表現するために結成された12人編成(弦楽編曲者の中島ノブユキも含む)のスモール・オーケストラで、常に「存在しない女優」としての歌姫をエスコートしている。結成から前幕(2005年12月6日「天使の恥部」天王洲アートスフィア公演)まではカヒミ・カリィがその役を務め、幽玄で母性的な美しさと甘くトラウマシックなウィスパーヴォイスで彼ら彼等の演奏に、シルキーで霊的なアウラを降り注いだ。
バンド名はスペイン語で、’ペペ’は「伊達男/女たらし」’トルメント’は「拷問」、’アスカラール’は「砂糖漬けにした/甘ったるい」を各々意味する。04年9月に「エスクァイア日本版」のジャーナリスト/モデルとして4日間だけアルゼンチンのブエノスアイレスに赴いた菊地が持ち帰った物は、取材の主要な目的であった「アルゼンチン音響派」といった当時流行中のポスト・モダニズムではなく、伝統的なアルゼンチンタンゴが見せる「死後」を強くイメージさせる深夜の悪夢で、帰国後に菊地はラテンという文化を巡る「エキゾチズム/ポスト・コロニアリズム」、そして自己の自我を巡る「胎内回帰/幼児期記憶の再生」という二律背反を止揚すべく、更にパリに赴き、異様なまでにエレガントで甘美な、悪夢的なフェイク・タンゴのアルバム『南米のエリザベス・テイラー』を完成、発表すると同時に、世界的に類例を見ない、極端に奇妙で古典的な楽器編成を持つこのオーケストラを結成、04年の6月に行われた初公演以来、5回の公演を数え、ハーブや二台のパーカッション、バンドネオンやサキソフォンが並ぶその威容と音響は、赤ワインの力を借りながら(この音楽には、レゲエにマリファナが要るようにして、ビーバップにヘロインが要るようにして、南米産の赤ワインが要るんです)多数の観客のドレスを脳内で脱衣させ、極めて中毒性の高い砂糖漬けの拷問を行い続けてきた。
アフロ〜ラテンからパリを経由して現代音楽に至る、新古典主義的かつ過剰にロマンティークそして騒音的な楽曲群は、こうして菊地の持つ根源的な分離である「優雅/猥雑」の、シアトリカルな表現を行うと同時に、オペラ座、コロン劇場、アマゾナス劇場、上海歌劇場、ピエン・プアン・チャン劇場等々、世界に点在する「劇場の霊力」を喚起/召還する。本公演「第一回革命舞踏会」は、象徴としての「存在しない女優」が演ずる革命劇であると同時に、文字通り「踊ることが出来ない舞踏会」であり、菊地はそのために、東京では数少なくなった「アウラの宿る劇場」である九段会館大ホールを選んだ。本公演の「存在しない女優」は、カヒミ・カリィと並び、やはりアルバムに参加している内田也哉子(彼女の母親が女優であることは広く知られている)。菊地の演出する物が、単なる懐古趣味や安全なエキゾチズムなどではない事は、彼を知る者であれば了解している筈だ。極めて現代的、先鋭的な手捌きで我々を(「どうしようもないほどの」と言って良いだろう)官能と憂鬱の極地に誘う、革命家/誘惑者としての彼の真骨頂にして、これはプルミエなのである。
菊地成孔 第一回 革命舞踏会
2006年2月9日(木) 18:30開場/19:00開演
会場:九段会館
出演:菊地成孔 pepe tormento azucarar
ゲスト:内田也哉子
全席指定¥5,250(税込)※未就学児入場不可
チケット取り扱い:電子チケットぴあ0570-02-9999 /0570-02-9966(Pコード:216-785)
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