
text by 原田和典
サム・ヤエルは現在、最も精力的に活動する鍵盤奏者のひとりである。この2006年に限定してもビル・フリゼール・トリオ、マデリン・ペルー・バンド、ジョシュア・レッドマン・エラスティック・バンドのメンバーとして来日を繰り返している。ノラ・ジョーンズ、ピーター・シンコッティ、リズ・ライト、メイシオ・パーカー、ルー・ドナルドソン、ベニー・ゴルソン、ジェシ・ヴァン・ルーラー・・・・共演者のリストは果てしなく続く。世代を超えた創造的な音楽家たちが、どれほどサムのタッチを求めているかわかる。
1971年にジョージア州アトランタで生まれたサムは6歳でピアノを始め、90年にニューヨークの音楽学校「ニュー・スクール」へ入学した。この頃からハモンド・オルガンも演奏するようになり、「オーギーズ」(現「スモーク」)や「スモールズ」といったクラブへ出演し始める。98年には初リーダー作『Searchin'』をNaxosレーベルから発表し、ジャズ・オルガンの新星として広く注目される一方、99年にはセロニアス・モンク・ジャズ・コンペティションのピアノ部門にも入賞するなどピアニストとしても高い評価を集める。そして2001年、ジョシュア・レッドマン、ブライアン・ブレイドと共にユニットを結成。当初は“YaYa3(ヤ・ヤ・キューブド)”と名乗っていたが、ほどなく“ジョシュア・レッドマン・エラスティック・バンド”に発展した。
本作『Truth and Beauty』はサムにとって通算4枚目、7年ぶりのリーダー・アルバムにあたる。ジョシュア、ブライアンとのトリオ編成という点は初期エラスティック・バンドとまったく同じだが、踊りだしたくなるようなイントロをもったタイトル曲「Truth and Beauty」からいきなり、サムの強烈なリーダーシップが耳に飛び込んでくる。各メンバーが自由奔放に演奏しているのは間違いないけれど、その頂点と底辺に位置してサウンドを挟み込んでいるのはサムのオルガン以外の何ものでもない。ジョシュアが吹いていない部分はオルガンとドラムスのデュオになるのだが、このパートがまた、たまらなくスリリングで、いとおしい。最小限の編成のなか、ときにエモーショナル、ときにクールにオルガンを制御していくサム。かねてから定評のあった左手のベース・ライン、ラリー・ヤングをさらに発展させたかのような鋭利なハーモニーはさらにコクを増し、フット・ペダルでヴォリュームを自在に変化させながらフレーズを紡ぐ「Bend the Leaves」、アコースティック・ギターのアルペジオを鍵盤上におきかえたかのような「Festinhas」などは現代ジャズ・オルガン・プレイの代表的なサンプルといっていい。オーネット・コールマンの「Check-Up」、ポール・サイモンの「Night Game」、ジルベルト・ジルの「A Paz」といった多彩なカヴァー曲にも、サムの柔軟な感性が反映されている。
『Truth and Beauty』の登場でサムの評価は更に厚みを増すはずだ。売れっ子サイドメン、万能の鍵盤奏者としてのサム像に、“強靭な統率力を持ったリーダー”、“思索的な作曲家、編曲家”という新章が加わるのだから。才人サム・ヤエルの、真のショウケースがここに誕生した。

→サム・ヤエル オフィシャルウェブサイト
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